最后的愛,最初的愛
”君といた一瞬が、僕の永遠。”
2003年・日本&中国
監督/当摩寿史
キャスト
早瀬高志 (渡部篤郎)
ファン・ミン(シュ-・ジンレイ)
ファン・リン(ドン・ジェ)
滝本司 (松岡俊介)
理恵 (目黒真希)
恩田聡 (石橋凌)
ピ-ト (チェン・ボ-リン)
澤井和彦 (筧利夫)
森口 (津田寛治)
李社長 (ウ-・ル-チン)
どんな映画?(ネタバレ満載)
物語の舞台は、2003年の中国上海。
日本の自動車メ-カ-であるイムラ自動車の上海支社に、東京本社の企画開発部で働いていた早瀬高志<渡部篤郎>が転任して来る。
新しい職場で、同僚となる人達に転任の挨拶をする早瀬の様子は、どこか痛々しく上の空。
上海支社の支社長・恩田聡<石橋凌>だけは、東京で早瀬の身に起こった悲劇を知っている。
婚約者であった理恵<目黒真希>が早瀬に何も告げないまま親友の滝本司<松岡俊介>と付き合うようになり、半年前、滝本が運転する車で事故に遭って、助手席に乗っていた理恵は亡くなったのだ。
婚約者を喪い、また信じていた二人の裏切りに傷付き、以来早瀬は心を閉ざしていた。
自分の歓迎会を途中で勝手に退席した早瀬は、独りで街に出て酒を飲み続ける。
酩酊状態で会社が予約してくれている五つ星ホテルに辿り着いてチェック・インするが、酒を飲み過ぎた上に大量の睡眠薬を併用して飲み、部屋で倒れてしまう。
足元も覚束ない早瀬の様子を確認していたホテルのフロント係ファン・ミン<シュ-・ジンレイ>は、早瀬がロビ-のソファに置き忘れたコ-トを届けるため、早瀬の部屋のドアの向こうに立っていた。
部屋の中から聞こえて来た物音で、早瀬の身に何かが起きた事を察したミンの迅速な対応により、早瀬はすぐに救急車で病院に運ばれる。
曖昧な意識の中で「誰にも知らせないで」と付き添うミンに伝えると、早瀬は意識を失った。
二日後に病院で目覚めた早瀬は、倒れた自分のためにホテルから新しい服が届けられていたこと知る。
シャツ一枚で運ばれた自分のためにミンが準備してくれた服だと、早瀬は気付く。
そのス-ツを着て午後から出社して来た早瀬に、恩田支社長は”上海大学で行われる企業向けの中国語研修に参加する”よう指示をする…「頑張れよ」と言う恩田支社長に、早瀬は頷く。
しかし、早瀬は今夜から始まる中国語研修に参加せず、残してきた荷物を受け取るためにホテルに戻り、ミンに礼を言っていると、日本から訪ねて来た親友・澤井和彦<筧利夫>に声をかけられる。
澤井は、二人の親友であった滝本の事故後の様子を伝え、彼もまた苦しんでいることを伝えた。
一方。ミンの妹で上海大学の学生であるファン・リン<ドン・ジェ>は、落としそうになった単位の引き換えとして、週に二回、企業派遣された日本人に中国語を半年かけて教えることを、教授から頼まれた。
初回の授業に生徒は来てくれなかったが、二回目の授業には遅刻して早瀬が現れる。
早瀬はリンに「授業はせずに、授業を受けた事にしてくれ」と持ちかけるが、リンはきっぱり断る。
そのまま帰ろうとする早瀬に、リンは「遅刻して来たから授業を延長する」と言うが、早瀬は帰ってしまう。
二人が外に出ると、雨が降っていた。
リンに傘を貸し、自身はずぶ濡れになって帰っていく”大人”な早瀬に、リンは好意を持つ。
後日、”傘のお礼”も兼ねた三回目の授業として、リンは早瀬を自宅でのランチに招待する。
地図を片手にリンの家を探していた早瀬は、その道中で買い物に出ていたミンと出逢い、共に驚く。
そこで、リンに”傘を貸してくれた日本人”が早瀬であることを知ったミンは「リンはあなたを家族に紹介することを楽しみにしているから、二人が既に知り合いである事を知ったらガッカリしてしまう。だからリンの前では、あなたと私は初めて会った事にして欲しい」と早瀬に頼んだ。
その後、ファン姉妹の家に着いた早瀬は、リンとその父親に歓迎されながら、昼食のテ-ブルに着く。
そこに出掛けていたミンが帰って来て合流し、早瀬はぎこちなく「初めまして」と言い、挨拶し合う。
二人だけの共通言語である英語で話す早瀬とミンにリンは嫉妬し、ミンを視線で追っている早瀬の様子から父親は二人の間に何かが存在することを察する。
早瀬が勤務するイムラ自動車では、”エタニティ”と命名された新車の販売に力を入れていた。
その車は東京支社の企画開発部に居た早瀬と滝本が開発に携わった車であり、”エタニティ”(=永遠に愛される車、永遠に名を留める車)と名付けたのは、未だ入院中である滝本であった。
上海支社では、”エタニティ”の販売に伴い、今まで取引実績がない超大手自動車ディ-ラ-との商談が実現するが、ディ-ラ-会社の李社長<ウ-・ル-チン>は”エタニティ”の更なる価格値下げを要求し、その代わりに桁違いの台数で”エタニティ”を売ることを約束する。
日本では到底実現不可能な販売台数を提示する李社長の話に呆れた早瀬は、取引相手には日本語が通じないと思い、「ハンバ-ガ-じゃないんだから。まるで叩き売りだ」と呟いてしまう。
日本の大学を卒業している李社長はその言葉を聞き逃さず、「上海で取引するのならば、そちらが中国語を話すのが礼儀ではないか」とした上で、早瀬の勉強不足を指摘し、また「あなたは上海に何をしに来たのですか。車を売りに来たのではないのですか」と詰め寄る。
早瀬は再び日本語で「”エタニティ”はそこら辺の大衆車とは違う。あなたはこの車の持ってる個性やポリシ-などの価値を全く理解していない」と言い返すが、李社長は「我々が欲しいのは普通の人が買える大衆車です。高級ブランドではない”エタニティ”は立派な大衆車であり、だからこそあなた方の会社に期待している。形や良さが理解れば、車の価値はその後に付いてくるものです」と冷静に答える。
取引は破談になりそうな雲行きで、余計な事を言い過ぎた事を早瀬は陳謝するが、李社長は「私の方こそ、余計な事を言い過ぎました。でも我々は車を売って生活している。車が売れなければ生活出来ない。あはたはその事が理解っていないのではないか」と問いかける。
商談を退席して街を彷徨い歩いていた早瀬は、診察を終えて病院から出て来たミンと偶然出会う。
先日のランチのお礼と共に、早瀬は「君達家族を見ていたら、気持ちが軽くなった」と伝えた。
ミンが作った上海料理がずらりと並んだ食卓は、柔らかな光に包まれ、温かい優しさに満ちていたから。
ミンはずっと気になっていた事を聞く…「早瀬がホテルで倒れた時、死のうとしていたのではないか?」と。
早瀬はそうであった事を認め、「毎日が同じで、時間が止まっているみたいだったから」と答えた。
「私は時間が止まって欲しいと思っている。死にたいと思って生きているのと、生きたくても死ぬのと、どっちが辛いのかしらね」と穏やかに憤るミンに、早瀬は彼女の中にある秘密を感じる。
自身の限界を感じて退職を願い出た早瀬を、恩田支社長は週末に通っている別宅に連れて行く。
田舎の風情を残した家で、かつて自分も早瀬と同じ境遇にあった事を話し、「傷付いてもどうにもならない事はある。だから何もやらないか。それでも何かをしていくか。要はそれだけだ」と諭す。
それを聞いた早瀬は、、、自分と自分の人生を取り戻すために動き始める。
まず論戦になったディ-ラ-会社の李社長の元に行くが面会を断られ、その帰り道、中国語研修の時にリンを迎えに来ていたリンの幼馴染のピ-ト<チェン・ボ-リン>の窮地を救う。
自分を助けていたために早瀬がリンのレッスンを受けられなかったと思ったピ-トは、早瀬をリンの家に連れて行き、その事情をリンに説明するつもりだったが、リンはまだ帰って来ていなかった。
代わりに応対したミンは、早瀬がリンのレッスンを受けるつもりであった事に驚く。
街で会った時の早瀬は「もう必要ではないから、リンのレッスンには行かない」と言っていたからだ。
「どうしてリンの授業に行くつもりになったのか?」と聞くミンに、「君が僕に言った事は正しい。他の人からは何を言われても平気だった。でも君にだけはそんな自分を恥ずかしいと思った」と早瀬は伝える。
恩田支社長の尽力の甲斐あって、李社長の自動車ディ-ラ-との商談は無事に成立した。
そして急に人が変わったように仕事に集中し始めた早瀬に、同僚達は戸惑いながらも、歓迎する。
自分の時間を再び取り戻し始めている早瀬は、ドキドキしながら、ミンを上海大劇院でのコンサ-トに誘う。
ミンも一度はそれを受け入れたが、太陽がビルの間に沈むのを見た時に迷いが生じ、家に戻ってしまう。
帰宅したミンの様子がおかしいことに気付いた父親が「どうかしたのか?」と訊ねると、ミンは「人を好きになるのは、許されないから。早瀬さんと会う約束をしたけど、戻って来た」と答える。
不治の病を抱えるミンのことが父親として心配であるが、ミンがそのために全てを我慢しながら生きていくことが正しいとは思えず、「お前には素敵な思い出を作ってほしいと思っている」と涙ぐみながら伝える。
その言葉に背中を押されたミンは、早瀬が待つ約束の場所にタクシ-で急いで駆けつけた。
約束の時間が過ぎても現れないミンを待ち続けていた早瀬は、ミンの姿を見つけ、安心する。
早瀬が「君のことを考えてたら、時間が気になりだして」と新しく買った時計を見せると、「私は外して来ちゃった」と答えたミンに、「それって…」と期待のために照れて口ごもってしまう早瀬。
コンサ-トはミンをデ-トに誘うための口実で、二人は街を散歩をしながら、話し始める。
早瀬はずっと気になっていた事を聞く…ミンが”自分にはもう時間がない”ように言っていたのは何故か?
「それを言うつもりはない。あなたはいつか忘れる。何も望まなければ辛くならない。今夜、あなたと会えることを楽しみにして来ただけ」と答えるミンを、早瀬は「(日本語で)好きだ。」と言って抱き締めた。
そこに、早瀬を探していたリンが現れる。
自分に隠れて二人が逢っていたことにショックを受け、怒って駆け出したリンを二人で走って追いかける。
しかしミンの心臓はその急激な展開に耐え切れず、歩道に崩れ落ちた…驚いてミンに駆け寄る早瀬。
翌朝、病院で目覚めたミンは、付き添っていた早瀬に「嬉しかった。だからもう忘れる」と別れを告げる。
”あと少しで残された時間が尽き、死が訪れる”というミンの秘密を知らされた早瀬は、ミンの望み通り、婚約者を亡くし再び愛する女性を喪うという事実を受け止めきず、ミンの元を去って行く。
ミンの秘密を知らされていなかったリンは、自分が早瀬のことを好きであることを知りながらも隠れて会っていた二人のことを許せずにいたが、父親から全てを聞き、ミンが早瀬を諦めようとしていることを知る。
ミンにとっては最後の恋だというのに…リンは父親と共に、二人を再び逢わせることを計画し、実行した。
リンの協力があって、再びめぐり逢うことが出来た二人に、もう迷いはなかった。
”最期の瞬間を迎えるまで。”…東京本社に戻った恩田支社長の別宅を譲ってもらった早瀬は、ミンと二人で暮らすようになる。
そして早瀬の腕の中で息絶えたのであろうミンは、この上もなく幸せな表情で。
一人残された早瀬が「”永遠”という言葉は何故、あるのだろう?一秒が、一日が、それが重なって”永遠”と言うのなら、僕は”永遠”という言葉を信じたいと思う。”永遠”はただ一人のものでない。誰かと繋がっている。何かと繋がっている」と語る言葉をもって、物語は-fin。
感想
オ-ル上海ロケで、綺麗にライトアップされた高層ビル、暖かく築き上げられた家族の関係、永遠ではない命の儚さ…映像の美しさに加えて、伝わってくる空気に濁りがなく、とても美しい。
外白渡橋、旧上海第ニ肺科病院(ミンの家)、インタ-コンチネンタル・ホテル、金陵東路輸渡站、Bar Full Houseなどなど…生き生きと美しい上海の魅力が満載で。
それに言葉も。早瀬は中国語が出来ない日本人サラリ-マンで、ミンは英語が得意な中国人女性なので、二人の共通言語は英語でしたが、二人共発音がすごく綺麗でした。
風景や言葉だけではなく、この映画の中には、イヤな人というのも一人も出て来ない。
仕事に対して全くヤル気がなく、足を引っ張るだけの早瀬を、彼の事情を知る恩田支社長はともかく、事情を知らない同僚の陳<ヤン・シ-チ->や森口<津田寛治>は決して責めない。
悪口を言って笑ったって、そこから何も生み出さないし、自分に与えられたことを懸命にやるのみ。
李社長は、取引先の下っ端社員にあれだけのことを言われたら普通許さないだろうに、早瀬を赦す。
そして早瀬に伝えた仕事についてのポリシ-は明確で、そこに一点の曇りも迷いもない。
”車を売って生活する”ことに焦点を絞り、それ以外のことは潔く切り捨て、変なプライドにも拘ってない。
また自らの甘い信念を押し付けて商談を失敗させそうになった早瀬を、恩田支社長はただ責めるという態度を取らない…頂点に立っている人の姿として、二人ともすごく素敵。
早瀬が恋敵であるリンの幼馴染のピ-トも素敵な青年で…ス-ツを粉まみれにしながら助けてくれた早瀬に素直に感謝し、ライバルを蹴落とすのではなく、自分が懸命に働く姿をリンに見ていて欲しいと言う。
あと忘れてはならないのが、ミンとリンのパパ…洋服の仕立て屋として外国のス-ツも扱っていた昔、国に対する背信行為を疑われて警察に拘束され、そんなパパを心配した今は亡きミンとリンのママが、毎夜同じ位置に輝く北極星に願をかけて取り戻したというエピも素敵でした。
今は見るからに人が良さそうなパパなのだけど、国が大変な頃に生き抜いてきたのに、娘が連れてきた日本人サラリ-マンに対しても、分け隔てなく優しく歓迎し受け入れてくれる。懐が大きい。
妬みや嫉妬、無駄なプライドや醜い出世欲とかに全然拘っていなくて…皆純粋で裏表がなかった。
そして二人が付き合うまでの道のりが丁寧に描かれているのだけど(リンのレッスンから考えていくと、二週間ほどの間に起こったことですが。)、二人が付き合う様子はラスト近くに映像として流れていくだけ。
始めなければ終わらない。始めてしまえば終わりが来る…愛する女性を二人見送るコトとなる早瀬。
親友の彼女を愛し、その結果として彼女も親友も失うコトとなる滝本。
二人の男性に愛されながらも、結局、早瀬には”裏切られた”というカタチで残り、滝本には”死をもたらした責任や懺悔”というカタチでも心に残ることになってしまう理恵。
「初めての恋であって、最後の恋でもある。」…早瀬の中で、”永遠”というカタチで残るコトとなるミン。
ちょっとしたボタンのかけ違いで、コインの裏表の様な関係になってしまう。
家族が愛してくれるのは”当然”で、他人が愛してくれるのは”運命”…そんなキモチに陥ってしまいがちだけど、改めて”愛する”というコトの美しさと難しさ、正義と残酷さを考えたりもしました。
映画には関係ないですが、ス-ツ姿が素敵な渡部さんでしたが、デニム姿は違和感が…。
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