映画「スラムドック$ミリオネア」

基本データ

映画「 スラムドッグ$ミリオネア 」 SLUMDOG MILLIONAIRE
2008年・イギリス&アメリカ
監督/ダニ-・ボイル

キャスト

ジャマ-ル・マリク 
  大人(デヴ・パテル)ジャマ-ル
サリ-ム・マリク
  大人(マドゥル・ミッタル>
ラティカ
  大人(フリ-ダ・ピント)
ママン
   (アンクル・ヴィカール)
プレーム・クマール
  (アニル・カプ-ル)
警部
  (イルファン・カ-ン)
ドン・ジャヴェド 
  (ア-ユッシュ・マヘ-シュ・ケ-デカ-)
司会者クマ-ル
  (アニル・カプ-ル)

あらすじ★ネタバレあり

2006年、インドの大都市・ムンバイ。
スラム街に生まれた青年ジャマ-ル・マリク<デヴ・パテル>は、警察で拷問を受けていた。
彼が拘束された理由は、インドの人気テレビ番組で世界最大のクイズ・ショ-でもある“クイズ$ミリオネア”に出演し、あと一問正解を出せば、番組史上最高額の賞金を獲得出来るまで勝ち進んだから。
拷問のシ-ンに合わせて、スクリ-ンには「彼は何故、ここまで勝ち進めたのか?」というクレジットが出て、その答えとされたのは「A:インチキした、B:幸運だった、C:天才だから、D:運命だった」の四択。
高学歴な医者や弁護士でも勝ち残れなかったのに、無学なハズのスラム街育ちの青年が勝ち残ったのは、「A:インチキした」…周りはそう判断し、告発された彼は拷問にかけられているのだ。

足先から電流を流される拷問で、ジャマ-ルは「僕は答えを知っていたから。」と言う。
この言葉を聞いた警部<イルファン・カ-ン>は、ジャマ-ルがインチキを自白するつもりだと思い違いをし、“クイズ$ミリオネア”でジャマ-ルが回答する映像を流しながらの尋問に切り替える。
一問目のクイズは、ジャマ-ルがまだ生まれていない頃に製作された映画の主演俳優を問うものだった。
答えとなる俳優は、”インドで一番有名”であったことから、警部も「一問目は誰でも答えられる」と納得するのですが、スラム街に生まれた子供達は”インドで誰でも知っている”ことを知る環境には居ない。
ジャマ-ルがその問いに答えられたのは、別の理由があったのだ。
幼少のジャマ-ル<ア-ユッシュ・マヘ-シュ・ケ-デカ->が大ファンだった俳優であり、彼が昔自分の住む街にやって来た時、兄サリ-ム<アズルディン・モハメド・イスマイル>を怒らせてしまいトイレに閉じ込められるのだけど、懸命に脱出し、幸運にも写真にサインをもらうコトが出来たのだ。
「僕の宝物だ。」と大喜びするジャマ-ルだったけど、サリ-ムはその写真を売り飛ばしてしまう。
泣きながら抗議するジャマ-ルに、サリ-ムは笑いながら「高いカネになったんだ」と言うだけだった。

番組の司会者プレ-ム・クマ-ル<アニル・カプ-ル>曰く「インドで最も有名な言葉である」二問目のクイズを答えられなかったジャマ-ルは、ライフライン(オ-ディエンス)に頼り、無事クリアする。
「俺の5歳の娘でも知っている問題なのに、答えられないのか」と警部は疑いを深めますが、誰でも知っている問題だからこそオ-ディエンスに託しても大丈夫であったわけで、ジャマ-ルの幸運は続きます。

三問目のクイズは”ラマ-神”に関する問題で、その問題に答えることが出来たのは、マリク兄弟が孤児になった事件と直結していた。
インド国内には数多くの異教徒集団があり、宗教間の争いによって生まれ育った街を異教徒達に襲撃された時、優しかった母親は兄弟の目の前で無残に撲殺され、その時に見た”ラマ-神の姿”は、ジャマ-ルの記憶に深く刻まれることとなった。
当時の辛い記憶を思い返していたジャマ-ルは三問目をクリアしても喜ぶことはなく、そのままコマ-シャルに入り、司会者から「ツイてたな。次はないぞ。」と冷たく耳打ちされる。
そんな扱いを受けることに慣れているのであろうジャマ-ルは、表情をあまり変えない。

四問目のクイズは”クリシュナ神の歌”に関する問題で、ジャマ-ルは再び自らの過去を思い起こすことになる。
母親も家も全てを失った兄弟は街を逃げ出し、同じような境遇にある少女ラティカ<ルビ-ナ・アリ>を”三銃士”の一人として、共に生きていこうとしていた。
そこに現れたのが、ママン <アンクル・ヴィカール>をボスとするマフィア…ゴミの山で暮らす子供達に優しく手を差し伸べてきた。
十分な食事と寝床を準備してくれるママンは親切で、子供達に賛美歌を上手に歌うよう指示する。
「上手に歌えることが出来れば、お金持ちになれる」と信じる子供達だったが、歌が下手なサリ-ムは、頭を使って生き抜いていくしかなく、それをママンに見込まれ、子供達を冷酷に仕切るようになっていく。
ある夜。ママンは、自分が好きな”クリシュナ神の歌”を子供達に歌わせるテストをする。
その場に立ち会っていたサリ-ムは、ママンが見せた非道な行いに愕然とした。
歌が上手に歌える子供の目を、”二倍稼がせるため”だけに、目を薬で潰して失明させたのだ。
次に呼ばれた弟も同じことをされると察したサリ-ムは、弟を連れて、ママンの元から逃げ出す。
街を逃げ出した時と同じように、二人の後を追ってきたラティカだったが、走る列車に乗り込めず、ラティカの手を握っていたサリ-ムが手を離し、たった一人でママンの元に残ることになってしまう。
アトス(サリ-ム)とポルトス(ジャマ-ル)は三番目の銃士(ラティカ)を失い、運命はバラバラになる。

列車での旅を繰り返し、タ-ジマハルに辿りついた二人は、外国人相手のガイドを始める。
ある日。ジャマ-ルはアメリカ人夫婦にインドの日常的な風景をガイドしていたが、駐車していた車が盗難に遭い、怒った運転手から「(ジャマ-ルの)仲間の仕業だろう」と疑いをかけられ、暴行を受ける。
見かねて仲裁に入ったアメリカ人夫婦は、日頃からこういう暴行を受けているらしいジャマ-ルに同情し、「アメリカの良心を見せる」と言って、100ドル札を渡してくれた。

ガイドでの暮らしはムンバイに居た時よりも恵まれていたが、ジャマ-ルはラティカのことが忘れられない。
嫌がるサリ-ムを説得し、ムンバイに戻って来たジャマ-ルは、街で賛美歌を歌う盲目の少年と出会う。
ジャマ-ルは引き寄せられるように少年の元に行き、アメリカ人夫婦からもらった100ドル札を手渡すと、その匂いからドル札であることに気付いた少年が「幾らのドル札か?」と聞いてくる。
「100ドル札だ」と言う答えを信じない少年に、お札に描かれている顔を説明すると、嬉しそうに「ベンジャミン・フランクリン!」と言う…彼の名前を知らなかったジャマ-ルは呆然としてしまう。
ジャマ-ルの手と顔を触っていた少年は「偉くなったんだね、ジャマ-ル」と嬉しそうに声をかけてくれた。
複雑な気持ちになり、思わず「ごめん。」と少年に謝ってしまったジャマ-ルに、「君は幸運だった。だけど、僕は違った。それだけの事さ」と少年は屈託なく答える。
これが“クイズ$ミリオネア”での五問目のクイズとなり、盲目の少年アルヴィンドが言った「ベンジャミン・フランクリン」を大人になっても覚えているほど、ジャマ-ルの心に突き刺さった再会だったということになります。

アルヴィンドにラティカの居場所を教えてもらったジャマ-ルは、サリ-ムと共に、彼女の救出に向かう。
ママンの支配下にあるラティカの救出は困難だったが、サリ-ムには”ママンの殺害”という目的もあった。
銃口をママンに向け殺害したサリ-ムに逆らう者はおらず、何とかラティカを助けることが出来た。
しかし、報復のためママンの手下に追われるようになったサリ-ムはママンと対立していたボスが仕切るマフィアに所属し、ジャマ-ルからラティカを奪う…ポルトス(ジャマ-ル)は、アトス(サリ-ム)も失った。
六問目のクイズは、サリ-ムがこの時ママンに向けた銃に関する問題だった。

青年になったジャマ-ルは、携帯電話会社のコールセンターのお茶くみとして働いていた。
イギリス人達を顧客とするコールセンターのフロアは、イギリスの通りや街の名にちなんで区画されていた。
これが七問目のクイズの答えと繋がる。
その会社でも“クイズ$ミリオネア”は人気があり、出場者を募集する電話の受付時間には、オペレ-タ-達が仕事を放り出してまで一斉に電話をかけるほどだった。
普段はお茶くみのジャマ-ルだが、この時間帯にはオペレ-タ-を頼まれ、席に座ることもある。
その機会を利用し、ジャマ-ルは子供の頃に生き別れたままのサリ-ムの電話番号を調べ、手当たり次第に電話をかけ、電話の向こうのサリ-ム<マドゥル・ミッタル>は、声ですぐにジャマ-ルだと気付いた。

兄弟はムンバイの街を見下ろす建築中のビルで再会することとなり、ジャマ-ルはそこでサリ-ムを殴る。
そのままサリ-ムの家に転がり込んだジャマールは、サリ-ムを張り込み、マフィアのボスの愛人となっていたラティカ<フリ-ダ・ピント>の居場所を突き止めた。
マフィアのボスの家で暮らすラティカは今も幸せそうではなく、ジャマ-ルは「二人で逃げよう」と誘う。
そこに戻って来たボスは、大富豪である自分と暮らしながらも、一攫千金を夢見るテレビ番組“クイズ$ミリオネア”ばかり見ているラティカを非難し、テレビをクリケットの実況中継番組に変える。
八問目のクイズは、最高記録を出したクリケット選手の問題で、この時に耳にしたものであった。
そして、長年の想いが交差した二人は共に逃げようとするが、それに気付いたボスの命令により駆けつけたサリ-ムによって引き裂かれる…ラティカは再びジャマ-ルの手の届かない所に行ってしまう。

ジャマ-ルは、“クイズ$ミリオネア”に出演することが決まる…オペレ-タ-達は信じていなかったが、この番組の出場者募集の電話回線がどのタイミングで開けられるかを、ジャマ-ルは噂で聞いていたのだ。
お金が目的ではなかった。
”このクイズ・ショ-に参加すれば、ラティカに見てもらえる”…現実から逃げ出すチャンス=大金を与えてくれるこの番組を、ラティカがいつも見ていることを知っていたからだった。
ジャマ-ルの願いは叶い、次々と難題をクリアしていく姿を、ラティカは切ない表情で見てくれていた。
しかし、過去に自らも“クイズ$ミリオネア”で大金を手にしている司会者は、他の誰よりも「ジャマ-ルのインチキ」を確信しており、明日出される最終問題をジャマ-ルがクリアすることを阻止するため、警察に通報して逮捕させる。

駆け抜けてきた過酷な運命によって答えを導き出したことを理解した警部は、ジャマ-ルを釈放する。
今夜出される最終問題に答えさせるために、ジャマ-ルをテレビ局に向かわせたくなったのだ。
ジャマ-ルが2000万ルピ-手に入れるのか?再び一文無しに戻るのか?それは彼の運命による。
難題を次々にクリアしていくジャマ-ルをテレビで見たサリ-ムは、自分の命を懸けてラティカを逃がす。
インドの国中の人達は、スラム街から夢を実現させる18歳の青年の誕生を待ち望んでいる。

最終問題のクイズは、三銃士に関わる問題だった。
ジャマ-ルはその皮肉な巡り合せに、思わず笑ってしまう。
アトスとポルトスは知っていても…三番目の三銃士の名前は知らなかったのだ。
ライフライン(50/50)は既に使っていて、残るはライフライン(テレフォン)のみ。
電話番号は唯一サリ-ムのものしか知らない。が、サリ-ムは既にボスの命令によって殺されている。
そのことをまだ知らないジャマ-ルは、サリ-ムの携帯電話にかけてもらう。
「誰も出ない」…諦めかけた時、ラティカの声が受話器の向こうから聞こえてきた。
サリ-ムがラティカを逃がす時、ジャマ-ルからの連絡が入るかもしれない携帯電話を渡していたのだ。
突然のことにジャマ-ルは驚くけれど、ラティカが無事に生きていたことを知り、安堵する。
三番目の三銃士の名前をラティカも知らず、ジャマ-ルは「何となく」という理由で答えを選ぶ。
そしてその勘は当たり、ジャマ-ルは2000万ルピ-を手に入れる。
そして、それ以上に大切な”僕の宝物”(ラティカ)も腕に飛び込んで来る…インド国内は熱狂に包まれる-fin。

感想

”2009年アカデミ-賞”の最優秀作品賞と最優秀監督賞を獲得した作品。
”2006年アカデミ-賞”では、「ブロ-クバック・マウンテン」がこの「スラムドッグ$ミリオネア」と同じように作品賞を含む最多8部門にノミネ-トされたものの、最優秀作品賞は「クラッシュ」 に決まり、アン・リ-監督が「アカデミ-賞自体が保守的な為だ。」とコメントを出したのは有名ですが、アカデミ-賞も年月と共にその保守的な姿勢から少しずつ抜け出してきている。

でも逆に、スラム街に育った純朴な青年が一夜を境に幸運を手に入れ、富豪となった上に長年想い続けた女性とも結ばれるという典型的なアメリカンドリ-ム・スタイルがたっぷり詰まっていて、インドを舞台にしたアメリカ好みな映画とも言えると思う。
ジャマ-ルとラティカなら、獲得した2000万ルピ-を自分達のためだけに使うことはないだろう。
ママンの支配下で働かされていた子供を解放し、100ドル札を渡した少年もきっと助けてあげるだろう。
鑑賞後にそんな夢を見ながらも、弟とは真逆の人生を歩むことになったサリ-ムこそ、殆どの子供がスラム街で陥る怖さを描いているのであり、そういう少年もまた”運命”という答えになるのだろうか。
兄弟が住んでいたスラム街は生まれ変わり、「インドは世界の中心にある」とサリ-ムは言う。
ジャマ-ルはきっとそんな事に興味がなくて、ラティカをただ悪の手から救い出す事しか考えていない。
規模で考えるとサリ-ムの方が大きな夢を見ているのだけど、”人を一人悪の手から助け出すこと”もまたとてつもなく大変なことであって、弟のその一途な想いの前に、兄は自分の命を差し出す。
兄弟に与えられた運命は光と影のようにかけ離れてしまうが、その根底には、自分の命を守ることよりも兄弟に危険を知らせて逃がせようとした母親の大きな愛情に包まれて育った境遇が二人にはあって、サリ-ムは最後に、その自らの過去の前に跪いたような印象でした。

そして、イスラム教徒の名前を持つジャマルとヒンドゥ-教徒の名前を持つラティカがエンドロ-ルで共に踊るシ-ンでは、貧困から勝ち抜けした青年二人と貧困の中にある子供二人が交互に登場してくる。
映画を撮り終えた子供達は、数多くの異教徒集団がひしめくスラム街へ再び戻っていくのだ。
「施しをする方に神の祝福を」…目を潰されたた少年は、明るくそう声をかけていた。
上手く説明することが難しいけれど、、、施しをしてもらう方への神の祝福は誰が願ってくれるのだろう。
有名なハリウッド俳優達が驚くほど高額な寄付をしていることが、ニュ-スで流れる。
遠藤周作氏の「深い河」を読んだ時、未だ根強く残っている身分差別によって支配されているため、貧困に苦しむインドの人々は報われない現世よりも来世に望みを繋ぎ、生きていると書かれてあった。
イギリス人監督が撮ったこの映画は、何層ものベ-ルにくるまれた中にあるモノを伝えたかったのか?何層ものベ-ルそのものを描きたかったのか?…どちらとも受け取れ、複雑な気持ちが残りました。

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